「噛む力」は全身の健康と密接に関わっています。口腔機能の低下を早期に発見し、食事と口腔ケアの両面から健康を守る方法を解説します。
咀嚼(そしゃく)とは、食べ物を歯で噛み砕き、唾液と混ぜ合わせて飲み込みやすい形にする動作です。高齢になると、以下のような原因で咀嚼機能が低下していきます。
近年注目されているのが「オーラルフレイル」という概念です。これは、口腔機能のわずかな低下(滑舌の悪化、食べこぼし、むせの増加、硬いものが噛みにくいなど)が積み重なり、やがて全身のフレイル(虚弱)につながる過程を指します。
| 段階 | 症状 | 対応 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 滑舌の低下、食べこぼしが増える | 口腔体操、定期的な歯科受診 |
| 第2段階 | 硬いものが噛めない、口が乾く | 歯科治療、義歯の調整、唾液腺マッサージ |
| 第3段階 | 咀嚼機能・嚥下機能の明らかな低下 | 食事形態の調整、嚥下リハビリ |
| 第4段階 | 経口摂取が困難 | 医療的な栄養管理が必要 |
東京大学の研究では、オーラルフレイルの高齢者は、そうでない方と比較して要介護状態になるリスクが2.4倍、死亡リスクが2.1倍高いという結果が報告されています。口腔の健康を守ることは、全身の健康を守ることに直結するのです。
「噛めないから柔らかいものだけ食べる」という選択は、咀嚼機能のさらなる低下を招きます。筋肉は使わなければ衰えるのと同じで、噛む筋肉も適度に使い続けることが維持の鍵です。
噛む力が弱ってきた方には、食材を完全にやわらかくするのではなく、「噛みやすい硬さ」に調整することが大切です。
口腔ケアは虫歯や歯周病の予防だけでなく、誤嚥性肺炎の予防にも直結します。口の中の細菌が唾液や食べ物とともに気管に入ることで起きる誤嚥性肺炎は、口腔ケアで口の中の細菌数を減らすことで発症率を約40%下げられるという報告があります。
義歯のケアが不十分だと、義歯に付着した細菌が口腔内で繁殖し、口臭や口内炎、さらには誤嚥性肺炎の原因になります。
口腔機能の維持には、食事だけでなく、意識的なトレーニングも効果的です。以下は自宅で簡単にできる口腔体操です。
「パ」「タ」「カ」「ラ」をはっきりと発声するトレーニングです。それぞれの音が口腔・嚥下機能の異なる部位を鍛えます。
| 音 | 鍛える部位 | 効果 |
|---|---|---|
| パ | 唇 | 食べこぼし防止 |
| タ | 舌の先端 | 食塊を喉の奥に送る力 |
| カ | 舌の奥 | 誤嚥防止(喉を閉じる力) |
| ラ | 舌全体 | 食べ物をまとめる力 |
毎日の食事前に「パパパパパ、タタタタタ、カカカカカ、ラララララ」と各5回ずつ声に出して行いましょう。食事中の食事形態の調整と合わせて、口腔機能の維持に効果的です。
唾液の分泌を促すマッサージも効果的です。耳の下(耳下腺)、顎の下(顎下腺)、舌の下(舌下腺)の3箇所を指で優しく円を描くように刺激します。食事の前に行うと、唾液が分泌されて食べ物が飲み込みやすくなります。
口腔ケアと食事中の姿勢を改善することで、誤嚥性肺炎のリスクを大幅に減らせます。
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