咀嚼機能の低下と「オーラルフレイル」

咀嚼(そしゃく)とは、食べ物を歯で噛み砕き、唾液と混ぜ合わせて飲み込みやすい形にする動作です。高齢になると、以下のような原因で咀嚼機能が低下していきます。

  • 歯の喪失:80歳の平均残存歯数は約17本(8020運動の目標は20本)。歯を失うほど噛む力は低下
  • 咬合力の低下:加齢により咀嚼筋(そしゃくきん)が衰え、噛む力そのものが弱くなる
  • 唾液分泌の減少:口の中が乾燥すると食塊がまとまりにくく、飲み込みにくくなる
  • 義歯の不適合:顎の骨がやせると義歯が合わなくなり、痛みから噛むことを避けるようになる

近年注目されているのが「オーラルフレイル」という概念です。これは、口腔機能のわずかな低下(滑舌の悪化、食べこぼし、むせの増加、硬いものが噛みにくいなど)が積み重なり、やがて全身のフレイル(虚弱)につながる過程を指します。

オーラルフレイルのサイン

段階症状対応
第1段階滑舌の低下、食べこぼしが増える口腔体操、定期的な歯科受診
第2段階硬いものが噛めない、口が乾く歯科治療、義歯の調整、唾液腺マッサージ
第3段階咀嚼機能・嚥下機能の明らかな低下食事形態の調整、嚥下リハビリ
第4段階経口摂取が困難医療的な栄養管理が必要

東京大学の研究では、オーラルフレイルの高齢者は、そうでない方と比較して要介護状態になるリスクが2.4倍、死亡リスクが2.1倍高いという結果が報告されています。口腔の健康を守ることは、全身の健康を守ることに直結するのです。

噛む力を維持する食材と食事の工夫

「噛めないから柔らかいものだけ食べる」という選択は、咀嚼機能のさらなる低下を招きます。筋肉は使わなければ衰えるのと同じで、噛む筋肉も適度に使い続けることが維持の鍵です。

咀嚼トレーニングに適した食材

  • 根菜類:にんじん、ごぼう、れんこんは適度な硬さで噛む練習に最適。煮物にすれば硬さを調整できます
  • きのこ類:しいたけ、エリンギなど弾力のあるきのこは噛む回数を自然に増やします
  • 海藻類:わかめ、ひじき、昆布は噛みごたえがありながら飲み込みやすい食材です
  • りんご・梨:果物の中でも噛む力が必要な食材。薄切りにすれば食べやすくなります
  • するめ・干しもの:噛むトレーニングの代表格ですが、嚥下機能が低下している方は避けてください

調理の工夫で「噛みやすく」する

噛む力が弱ってきた方には、食材を完全にやわらかくするのではなく、「噛みやすい硬さ」に調整することが大切です。

  • 野菜は繊維を断つように切る(斜め切り、いちょう切り)
  • 肉は筋切りをし、片栗粉をまぶして加熱するとやわらかくなる
  • 大きな食材は一口サイズにカットして提供する
  • 煮込み時間を長くして、食材をやわらかくしつつも形は残す

口腔ケアの基本 — 毎日のケアが健康を守る

口腔ケアは虫歯や歯周病の予防だけでなく、誤嚥性肺炎の予防にも直結します。口の中の細菌が唾液や食べ物とともに気管に入ることで起きる誤嚥性肺炎は、口腔ケアで口の中の細菌数を減らすことで発症率を約40%下げられるという報告があります。

毎日の口腔ケアの手順

  • 歯磨き:毎食後と就寝前の1日4回が理想。歯ブラシは毛が柔らかめのものを選び、歯と歯茎の境目を丁寧に磨く
  • 歯間清掃:歯間ブラシやフロスで歯と歯の間の汚れを除去。歯周病予防に必須
  • 舌の清掃:舌苔(ぜったい)は細菌の温床。舌ブラシで奥から手前に向かって優しくこする
  • うがい:食後の水うがいで食べかすを洗い流す。うがい薬は必要に応じて

義歯(入れ歯)のケア

義歯のケアが不十分だと、義歯に付着した細菌が口腔内で繁殖し、口臭や口内炎、さらには誤嚥性肺炎の原因になります。

  • 毎食後に外して洗う:義歯専用ブラシで流水下で磨く。歯磨き粉は使わない(研磨剤が義歯を傷つける)
  • 就寝時は外す:義歯を装着したまま寝ると、細菌が繁殖しやすくなる
  • 義歯洗浄剤を使用:週2〜3回、義歯洗浄剤につけて細菌・真菌を除去する
  • 定期的な調整:顎の骨の変化に合わせて、半年〜1年に1回は歯科で調整を受ける

口腔機能を維持するためのトレーニング

口腔機能の維持には、食事だけでなく、意識的なトレーニングも効果的です。以下は自宅で簡単にできる口腔体操です。

パタカラ体操

「パ」「タ」「カ」「ラ」をはっきりと発声するトレーニングです。それぞれの音が口腔・嚥下機能の異なる部位を鍛えます。

鍛える部位効果
食べこぼし防止
舌の先端食塊を喉の奥に送る力
舌の奥誤嚥防止(喉を閉じる力)
舌全体食べ物をまとめる力

毎日の食事前に「パパパパパ、タタタタタ、カカカカカ、ラララララ」と各5回ずつ声に出して行いましょう。食事中の食事形態の調整と合わせて、口腔機能の維持に効果的です。

唾液腺マッサージ

唾液の分泌を促すマッサージも効果的です。耳の下(耳下腺)、顎の下(顎下腺)、舌の下(舌下腺)の3箇所を指で優しく円を描くように刺激します。食事の前に行うと、唾液が分泌されて食べ物が飲み込みやすくなります。

噛む力に合わせた食事形態をご提案します

配食のふれ愛では、噛む力や飲み込む力に合わせて、普通食・やわらか食・きざみ食・一口大・ムース食など、幅広い食事形態に対応しています。管理栄養士が栄養バランスを計算した献立で、口腔機能の維持と適切な栄養摂取を両立します。

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関連用語

嚥下障害

食べ物を飲み込む機能が低下した状態。咀嚼機能の低下と密接に関連し、誤嚥性肺炎のリスクを高めます。

フレイル

身体的・精神的・社会的な機能が低下した虚弱状態。オーラルフレイルは全身のフレイルの入り口とされています。

介護食

噛む力や飲み込む力に合わせて調理された食事の総称。普通食から段階的にやわらかさを調整します。

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