高齢者の約10%が該当するとされるフレイル。「健康」と「要介護」の中間にある状態を正しく理解し、毎日の食事で予防するための知識をお伝えします。
フレイルとは、英語の「Frailty(虚弱)」を語源とする医学用語で、加齢に伴い心身の活力(筋力・認知機能・社会的つながりなど)が低下した状態を指します。日本老年医学会が2014年に提唱し、「健康な状態」と「要介護状態」の中間に位置する段階として定義されました。
日本では改訂J-CHS基準(Japanese version of the Cardiovascular Health Study)が広く用いられており、以下の5つの項目のうち3つ以上に該当する場合をフレイル、1〜2つに該当する場合をプレフレイル(前虚弱)と判定します。
| 評価項目 | 判定基準 |
|---|---|
| 体重減少 | 6ヶ月間で2〜3kg以上の意図しない体重減少 |
| 筋力低下 | 握力が男性28kg未満、女性18kg未満 |
| 疲労感 | 「わけもなく疲れたような感じがする」に該当 |
| 歩行速度の低下 | 通常歩行速度が1.0m/秒未満 |
| 身体活動の低下 | 軽い運動や体操、定期的な運動をしていない |
厚生労働省の調査によると、65歳以上の高齢者のうちフレイルに該当する方は約8.7%、プレフレイルは約40.8%と報告されています。つまり、高齢者の約半数がフレイルまたはその予備軍であるということです。
フレイルは単に「体が弱る」ことだけを指すのではありません。身体的・精神心理的・社会的の3つの要素が複雑に絡み合って進行する多面的な状態です。
最も注目されるのが身体的フレイルです。サルコペニア(加齢性筋肉減少症)による筋力・筋肉量の低下が中心的な要因で、歩行速度の低下、転倒リスクの増加、日常生活動作(ADL)の制限につながります。骨粗しょう症や関節疾患との合併も多く見られます。
うつ状態、認知機能の低下、意欲の減退がこれに含まれます。食欲低下の主な原因となるだけでなく、服薬管理の困難や社会活動への参加意欲の低下を引き起こします。高齢者のうつ病有病率は約10〜15%とされ、フレイルとの関連が強く指摘されています。
独居、経済的困窮、社会的孤立がこれに該当します。一人で食事をする「孤食」は栄養摂取量の低下と強く関連しており、人とのつながりが減ることで精神的フレイルも進行しやすくなります。
フレイルは一度始まると、以下のような悪循環(フレイルサイクル)に陥りやすいことが知られています。
重要なのは、フレイルは適切な介入により改善が可能な状態だということです。特に食事と運動の組み合わせによる早期介入が、フレイルサイクルを断ち切る最も効果的な方法とされています。
フレイル予防の食事で最も重要なのは、十分なエネルギーとたんぱく質を確保することです。国立長寿医療研究センターの研究によると、たんぱく質摂取量が少ない高齢者は、フレイル発症リスクが約2倍に高まることが報告されています。
フレイル予防のためには、体重1kgあたり1.0〜1.2gのたんぱく質が必要です。体重60kgの方であれば1日60〜72gが目安となります。これを朝・昼・夕の3食に均等に分けて摂取することが、筋たんぱく質の合成効率を最大化するポイントです。
| 食事 | たんぱく質源の例 | たんぱく質量 |
|---|---|---|
| 朝食 | 卵1個 + 牛乳200ml + 納豆1パック | 約21g |
| 昼食 | 鮭の塩焼き80g + 豆腐の味噌汁 | 約22g |
| 夕食 | 鶏もも肉100g + ほうれん草の胡麻和え | 約22g |
たんぱく質だけでなく、十分なエネルギー(カロリー)の確保も欠かせません。エネルギーが不足すると、摂取したたんぱく質がエネルギー源として消費されてしまい、筋肉の合成に回りません。65歳以上の高齢者の推定エネルギー必要量は、身体活動レベルが「低い」場合でも男性で1,800kcal、女性で1,400kcalです。
ビタミンDはカルシウムの吸収を助けるだけでなく、筋肉の機能維持にも重要な役割を果たします。血中ビタミンD濃度が低い高齢者はフレイル発症リスクが高いことが複数の研究で示されています。鮭・さんま・しいたけなどビタミンDを含む食品を積極的に取り入れ、適度な日光浴も心がけましょう。
食事によるフレイル予防は、特別な食材やサプリメントではなく、毎日の食事を「少しずつ改善する」ことの積み重ねです。
フレイルは「年だから仕方ない」と諦めるものではありません。適切な栄養管理と生活習慣の改善によって、健康な状態を取り戻すことが可能です。早い段階で気づき、行動を起こすことが何より大切です。
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